2006.5.26

 ナレーションが2本と、アフレコと、取材な日。

 

 ある交差点で、次の現場にいそぐべく、タクシーを拾おうとしていたときのこと。

 一台の消防車が、けたたましくサイレンを鳴らしながら近付いてきたかとおもうと、わたしの目の前のマンションでキキッと止まった。ギョとしたのは私も周りの人達も同じだったらしく、つい足をとめて、もしや火事かとマンションを見上げた。けれど、ペカペカしたベージュの外壁からは、どこからも煙はでていない。人が騒ぐ気配もない。みんなの頭のうえに、揺れるハテナマークが見えるようだった。

 そうこうしているうちに、また遠くからサイレンが聞こえ始めた。ぐんぐんこちらに向かってくる。まさか、とおもった瞬間、さきほどよりもひと回り大きい消防車が、目のまえに慌ただしく停車した。

 火も煙もみえないのに、2台もきちゃうんだ、すごいなあ。…なんて思ったのは甘かった。それから間髪いれず、四方八方から緊急車両のサイレンが響いてきたのだ。

 

 わたしがタクシー待ちを始めて、およそ10分後。あれよあれよという間に、消防車7台・パトカー2台・救急車1台が、その小さな交差点を埋め尽くしていた。さっきまで閑散としていたのが嘘のようだ。あたりは、野次馬とサイレンと無線連絡の飛び交う声で、たちまちいっぱいになった。この光景だけを見たら、どんな大惨事が起きているのだろうと青くなる。だがしかし!当のマンションはシンと静かで、惨事の「さ」の字もみえないのだ。はて。

 すると、拡声器から割れた音が響いた。
 「こちらは○○消防署です。火事との通報がありましたが、たばこの煙だと判明しました。近隣のみなさまには危険はありませんので、ご安心ください。」

 ……た、たばこの煙を火事だと誰かが勘違いして通報したのね…。まあなにごともなくてよかったよかった。目の前の現実離れした光景をみながら、ホッと胸をなでおろす。

 

 けれど。

 こんな小さな場所に7台も消防車がきていて、いまこうしているうちにどこかで本物の火事が起きたらどうするんだろう。そう考えたら、ヒヤリと背中が寒くなった。

 救急の現場は一分一秒が明暗をわける。緊急車両が出払っていて…といつかいわれることが、自分には絶対ないなんて、いいきれないのだから。