2005.8.19
オーディションとナレーションの日。
母からメールがきた。ライアの具合がよくないらしい。実家にいる3匹いる猫のうち、いちばんの年寄り猫だ。そしていちばん穏やかで、いちばん優しい気質の子。
なんでも、肺にどんどん水がたまっていっていて、いつ心不全を起こしてもおかしくない状態らしい。そんな。そんなばかな。
小さな携帯の液晶画面を見つめながら、わたしはしばらく呆然としてしまった。そして、やわらかくたるんだ日なたのニオイの毛や、深く澄んだ緑の瞳をおもいだして、鼻の奥がたちまちツンと痛んだ。
やだ。やだ。そんなのやだ。ライアに会いたい。会いにいかなくちゃ。
いてもたってもいられずに、自宅に電話をかけた。母が、病院でレントゲンをとったことを話してくれた。全身が真っ白にうつったこと。それは体中に水がたまっていたからだということ。前足がむくんで2倍にはれあがっていること。歯がほとんどなくて毛づくろいができないから、体の毛を全部刈ったこと…。
聞けば聞くほど、涙がポロポロこぼれてきて、携帯片手に泣きじゃくりながら表参道を歩く私を、まわりのひとは横目で見ながら通り過ぎていった。
病院で薬をもらい、一時的にせよ水を抜いたおかげで、いまはだいぶ楽そうな顔付きになっているという。ちょっとまってね、と母はいうと、受話器のむこうでライアによびかけて、抱っこする音が聞こえた。
「ポン…ポンポン」
ふと、耳慣れない音がした。すると母の明るい声がいった。
「聞こえる?ライアちゃんが肉球でお話してるのよ。トントン、トントン。おねえちゃん、おねえちゃん」
母がライアの手をとって、かるく受話器にふれている音だった。やわらかい肉球のぬくもりが伝わってくる音だった。わたしはたまらず、近くのビルの影に滑り込んだ。そして子供みたいにしゃくりあげながら、耳元から流れ込むライアの体温を、全身で感じた。
時間を作ってすぐに帰ろう。かけがえのない、大切な家族の一員に会いに。がんばれ、ライア。