2004.10.5

 外画アニメのオーディションと化粧品VPのナレーションとゲームの収録の日。

 

 次の現場に急がなければいけなかったので、タクシーにとび乗った。

 

 「すみません、新宿までお願いします」

 「はいはい。いいですねえ、どちらにいかれるんですか?」

 「…えっと、だから新宿ですけど…」

 「え、電車に乗るんでしょ?」

 「…?はい。」

 「どこいくの?地方ですか?」

 

 ここまできて、やっと会話が見えた。なるほどね、これからどこかに旅行にいくようにみえたわけか。

 

 まあ無理もない。平日の昼前に、ラフな恰好をして大きな鞄を持った女性が「駅まで」と車を止めたら、どこぞのOLが有給休暇をとって、温泉にでもいくように見えたのかも知れない。

 

 いえいえ仕事中なんですよ、と笑いながら伝えると、へえ!とわたしをバックミラー越しに一瞥して、彼は気まずそうに黙ってしまった。何の仕事か聞いてはいけないと、自分にふたをしているようにもみえた。

 

 わたしたちの仕事は、外側からは見えにくい。スーツも制服も着ていなければ、タイムカードをおすこともない。午前中のほんの一時間で終わってしまう仕事もあるし、夜中の25時入りの仕事だってある。だから、仕事のあいまに映画やマッサージなんかにいくと、時々ではあるが、こんな平日の昼間からぶらぶらして…という目でみられてしまうこともある。

 

 それはそれでしかたない。外側からは見えにくい職種は、わたしたち以外にもたくさんある。ひとは見た目や外見でどうしても判断しがちだけれど、こういうときは、こんな風に考えてみる。

 

 ひょっとしたら、昼間からそば屋さんでビールジョッキをかたむけているあのジーンズのおじさんは、やっと原稿を書き終えた有名作家かもしれない。となりでファッション雑誌を立ち読みしているメイクの濃い女性は、新身気鋭のデザイナーかもしれない。そうおもってみると、いろいろな想像が膨らんで、人間ウォッチングがますますたのしくなる。

 

 あのタクシーの運転手さんには、わたしは何に見えたのだろう。きいてみればよかったかな。ほんの少し後悔しながら、箱根へ向かう電車を遠くに眺め、改札へと走ったのだった。