2004.7.22

 そのひとが嘘をついたとき、それはとてもさりげなく、ごくごく自然な流れで、ほんのすこし事実とからめた、悪意のないものだったにもかかわらず、ああこれは嘘なんだという、不思議なくらいあたりまえな確信が、すとんとわたしのなかにおちてきて、その軽さにふいに泣きたくなった。

 

 そのひとが、わたしを気遣ってあえてついた嘘ということも、わたしが嘘と見抜くはずがないと自信をもっていることも、なぜか手にとるようにわかったので、わたしはぼんやりとあいづちを打ちながら、そのひとの目をみることができなかった。

 

 わたしたちは日々、ほんのすこしずつ嘘をつく。仕事のために、ほんのすこし。家族のために、ほんのすこし。自分のために、ほんのすこし。ほんのすこし、ほんのすこし。

 

 ほんのすこしの嘘は、この社会をまともに生きていくには必要なのかもしれない。けれど、そんなほんのすこしの嘘でも、気付いてしまうとさみしくなる。あきらめにも似た、小さな痛み。小さな空虚。それはごくわずかだけれど。

 

 そのひとのそれは、きっと思いやりだった。でもわたしは、どうしても、弱々しい微笑みしか返せなかった。