2004.3.20
思わず、凝視してしまった。そのひとの顔をまじまじと。そのとき、わたしの口はポカンと開いていたかもしれない。それくらい驚いた。
食事にきたあるレストランで、てきぱきと働く長身の男性は、紛れも無く、昔バイトをしていたイタリアンレストランの社員さんだった。
忘れもしない、横浜シャルの「ラ・ヴィータ」。いくつものバイト経験のなかで、いちばんつらかった場所だ。大学生だったわたしは、いやというほど「大人の理不尽さ」や「虐げられる弱い立場」をおもい知らされた。いまでもふと思い出すと胃が痛くなるほど、あのバイト時代は一種のトラウマになっている。
そのひとは、店長やほかの社員さんに比べたらいちばんまともだった。わたしがしでかした大ミスをかばってくれたこともあった。それでも、まるでかわらない彼の様子をみていると、蓋をしたはずの嫌な思い出が刺激されてもれてくるようで、気付くと動悸は早く、からだにはじんわり冷たい汗をかいていた。
彼はそんなわたしにまったく気付く様子もなく、終始丁寧なサービスをしてくれた。まさか、10年近くたって彼にこうしてサーブされる日がくるなんて。
わたしがあの頃あの店で、何を感じて何を見たか。それをいまでも鮮明にわたしが覚えていることなんて、この人も店長たちも、想像すらしないだろう。
あるひとにとっては、一瞬で過ぎ去るささいなことでも、あるひとにとってはいつまでも忘れられない闇になる。少しずつ落ち着きを取り戻しながら、人の縁の不思議と恐さを、ソッとかみしめた。