2004.3.10
家をでて、駅にむかって急ぐ私の背中に、誰かが声をかけた。
「こんにちは!」
え?
聞き覚えのない幼い声。自分にいわれたのかどうかわからなくて、振り返るのに一瞬ためらってから、ちらりと背中ごしに視線をなげた。
そこには、ランドセルを背負った、青い服を着た男の子が立っていた。小学校3〜4年生だろうか。わたしのことを、誰か知り合いと間違えているのかもしれない。でも、その男の子はわたしの顔をじっと見つめて、もう一度、同じ調子で繰り返した。こんにちは。
「…こ、こんにちは…」
わたしがおずおずと答えると、彼はそれから何事もなかったように、駅に向かうわたしの数メートルうしろを黙ってついてきた。…いまのはなんだったんだろう。やはり人間違いかな。うんきっとそうだ。
そうおもいながらも、思いがけず彼が投げてくれたボールを、しっかり投げ返していないような、妙なむずむず感をかんじて、わたしは落ち着かない気分になってきた。
「さようなら」
そんなわたしの気持ちを見透かすように、ふいにまた背中に声がかかった。慌てて振り返ると、男の子のまっすぐな視線とぶつかる。
「さようなら!」
さっき気持ち良くかえせなかった分もこめて、今度はしっかり笑顔で挨拶をかえせた。男の子は納得した表情でうなずくと、横道へと消えていった。
ただこれだけの、小さな小さなハプニング。でも気付けば、「おはようございます」と「お疲れ様でした」ばかりをくりかえす毎日のなかで、こんにちは、さようなら、というまっすぐな挨拶は、いつのまにか少し距離のある言葉になっていたのかもしれない。
だから、妙に気恥ずかしくて、でも新鮮に感じたのかな。ふと自分が歩きながらニコニコしていることに気付いて、慌てて口元を引き締める。
見知らぬ男の子に、思いがけず、すがすがしい気持ちをプレゼントしてもらった日!